不妊治療
不妊治療の選択複雑化 (読売新聞朝刊 3/25)
| 精神面のケア重要にー「カウンセラー」置く病院も |
| 最新の生殖医療技術が不妊カップルに次々と新しい扉を開こうとしている。日本産婦人科学会の倫理審議会が夫婦以外の匿名の第三者から卵子を提供してもら い、体外受精を行う不妊治療を認める中間答申を出すなど、これまでの意識の転換を迫る動きも出ている。しかし、不妊に悩む人たちにとって、どんな治療を、 いつ、どこまで続けるかという選択はますます複雑化している。 |
| 「おめでとうございます。妊娠ですよ」今年1月、大阪府内に住むある夫婦は医師から体外受精の成功を告げられた。不妊治療を始めて10年目。妻は39歳になり、「年齢的にも限界。今回だめだったら、本当にやめよう」と夫婦で確かめ合った後のできごとだった。 |
| 10回の体外受精で500万円以上を費やした。初期の段階で、夫側に原因があることが判明。しかし、現在の治療でより高い成功を望めば、妻への負担は避け られない。「私が悪いわけではないのに、どこまで痛い思いをするの」と割り切れなさを感じながらも、体外受精の日に備え、妻は連日、排卵誘発剤の注射に 通った。注射した腕は手があがらないほど痛み、採卵後の鈍痛にも苦しんだ。 |
| 子ども連れのカップルを見ただけで涙がこぼれ、「半人前」と責める親類の言葉に落ち込んだ。「子どものいない人生もある」とも考えた。 |
| しかし、たった1年で進歩する技術に、あきらめきれなかった。結局、人工授精から体外受精などひと通りを経験し、今回も最新の体外受精技術にチャンスをかけ、「妊娠」に至った。 |
| 「子どもができた今だから、あきらめないでよかったと思える。でも、だめだった場合、次々と開発される医療技術を前に、あきらめきれたかは疑問」と言う。 |
| 10組に1組とされる不妊カップル。体外受精で生まれた子どもは1983年から一昨年までに、累計で約4万7千人を超えたともいわれる。不妊治療技術の進 歩が、逆に苦しみとなるケースも生み出す状況に、多くのカップルがいつ治療をやめるかという問題に直面している。不妊治療を受ける人への医療面と精神的の ケアに乗り出す医療機関も出始めている。 |
| 静岡県浜松市の聖隷三方原病院では、10人のスタッフが産婦人科を敬遠する男性のために、電話や電子メールによる相談事業を行っている。 |
| また、不妊外来を持ち、多くの体外受精を実施している神戸市立中央市民病院では昨年、「不妊プロジェクト」を発足させた。産婦人科医らでつくる民間団体 「日本生殖医療研究協会」(事務局・東京、荒木重雄会長)から医療と心のケアを行う「不妊カウンセラー」に認定された助産婦さんの橋村富子さんを中心に計 6人の看護婦、助産婦がチームを組んでいる。 |
| 不妊外来を訪れた人がどんな思いで治療を始めたのか、治療の経過は。その間の周囲からのプレッシャーや夫婦間のコミュニケーションは。どこまで治療を受け たいのか。そんな心の流れを外来と病棟に分かれ、見守る。その積み重ねの中から、場面、場面で適切な言葉かけや相談に乗っていく体制だ。仕事やそれまでの 生き方、家庭環境などが複雑にからむ問題だけに、将来は不妊に悩む人への専門の不妊相談室も検討している。 |
| とはいえ、こうした医療機関は、まだまだ少数派だ。不妊カウンセラーも現在、全国で100人に過ぎない。橋村さんは「結婚したら子どもができて当たり前と いう今の社会で、不妊治療を受ける人やカップルが自分の思いを整理し、納得のいく自己決定をするまでの道のりは厳しい。これかの人生のありようも視野に入 れた支援につながれば」と話している。 |
| 法的な立場からの議論不十分 |
| 新たに可能性のでてきた「匿名の第三者の配偶子を用いる」体外受精は、さまざまな波紋を広げている。 |
| 中間答申を出した日本産婦人科学会の倫理審議会委員長・武部啓近畿大教授は「卵巣機能不全の患者団体から、提供卵子による体外受精の促進を求める要望が寄せられた。少数の声であればあるほど尊重すべきだと思う」と言う。 |
| しかし、IVF大阪クリニックの森本義晴院長は、実際の運用について首をひねる。「全くの第三者は身体に負担の大きい卵子提供を金銭抜きで実行することは考えにくい。人権の問題もあり、判断に困っている」 |
| 法的な立場からは議論が尽くされていないとの指摘が多い。 |
| 北里大学医学部の家永登講師(家族法)は、40年から実施されている提供精子による人工授精(AID)で生まれた子どもたちの中には、相続をめぐって家裁 の調停になったケースもあることを挙げ、「遺伝的つながりがない以上、子どもの地位に関する法の整備が必要だ」と強調する。 |
| 大阪地裁では98年12月、事前の十分な承認がないままにAIDで生まれた子どもに対して、夫が「自分の子ではない」とした訴えを認める判決が出ている。 |
| 一方、明治学院大学の拓植あづみ助教授(医療人類学)は、不妊治療、医療技術を生み出す背景に目を向ける。「問題は、不妊治療だけが選択肢という社会のあ りようではないか。医師や患者の論理だけでなく、子どものことでしかつながれないカップル文化への問い直しや、子どもを産んでも産まなくてもいいという生 き方をもっと見せることが大切。まず不妊カップルの苦しみへの理解から不妊治療を考えるべきだと思う」としている。 |
| ほとんど規制ない米国 |
| 生殖技術をめぐっては、国によって対応に違いがある。 |
| 世界初の体外受精児が誕生したイギリスでは、90年にヒトの受精と胚研究に関する法を制定、翌年からは政府の認可機関が活動を始めた。 |
| これによると、生殖技術を受けられるのは既婚、未婚にかかわらず男女のカップルで、カウンセリングを必要とする。配偶子(精子、卵子)の第三者からの提供は、本人同意の上、無償で匿名という条件で認められており、代理出産も「商業主義的なもの」でなければできる。 |
| フランスは、生命倫理法(94年)により、受けられるのは「医学的不妊の認められた、生殖年齢にある生きた男女のカップル」、配偶子の提供はイギリス同様「本人同意、無償、匿名」が条件。代理出産は「禁止」とされている。 |
| 連邦医師会指針(85年)と胚保護法(90年)を持つドイツも代理出産は「禁止」。卵子の提供を禁止し、対象者は「医学的不妊の認められた婚姻カップルのみ」だ。 |
| 一方、アメリカは国としての法は持たず、各州法と判例で運用。全体としてみれば、ほとんど規制がないといってよい。生殖技術を受けるのに条件はなく、独身者や同性愛のカップルも利用できる。配偶子の提供もOK、代理出産も10洲で有償の契約を無効としているくらいだ。 |
| 日本の場合は、日本産科婦人科学会のガイドラインが唯一のよりどころ。それによると、生殖技術の対象は医学的不妊の婚姻カップルのみ。代理出産は認められていない。 |
2009年1月12日|コメント (0)|トラックバック (0)
カテゴリー:ぴかり!最新TOPICS
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